事業承継のすすめ(その1) 事業承継とは「事業」と「財産」の「承継」
(2021年10月13日)
こんにちは。中小企業診断士の武田です。
三浦湘南共創ネットワークのブログを訪問いただき、ありがとうございます。これから、数回に分けてみなさまと一緒に『事業承継』について考えていきたいと思います。
葉山でも、事業の『あととり』問題が年々深刻になっているとよくお話を聞きます。みなさまも、最近、『事業承継』という言葉をよく聞くようになったのではないでしょうか。また、親族以外の方への事業承継をサポートするM&A仲介会社のCMを見かける機会も増えてきました。
はじめにイメージ合わせをしましょう
冒頭に、『事業承継』についていくつか、イメージ合わせをさせてもらいたいと思います。と、言いますのは、事業承継という言葉の定義が、非常に広く使われているように感じるからです。財産の承継や自社株式の引継ぎに限定したことと捉えている方もいらっしゃるかもしれません。
私は、「企業は永遠に成長するもの」「企業は社会の公器である」を大原則に、「事業」と「財産」について時間を掛けて承継していくものと考えます。
また、『事業承継』はマニュアル通りに進められるものではないということです。なぜなら、企業の規模、経営者と後継者の立場、取り巻くステイク・ホルダ(従業員・取引先・金融機関他)により、異なる取り組みが必要となるからです。
では、今回は、中小企業をとりまく、『事業承継』の状況を見ていくことにします。
中小企業の事業承継の現状
最近、黒字であるにも関わらず、廃業する企業が増える傾向にあります。これは、経営者の高齢化により、中小企業の休・廃業や解散が増加しているためと考えられています。過去20年間で、中小企業経営者の年齢のピークは、20歳以上も上昇しました。そして、小規模企業では経営者の平均的引退年齢は70歳を超えるのが現状です。
また、元気でご活躍の経営者のみなさまは、決してそのようなことを感じていないかもしれませんがまた、経営者がご高齢の企業ほど、企業の成長性や活力が低下する傾向にあります。2015年に中小企業庁が実施した調査によれば、経営者の高齢化が進むほど、今後の売上や経常利益の伸びについても低くなるという結果が得られています。
事業承継の現状
後継者については、20年以上前は「息子・娘」への承継が80%以上を占めていました。しかし、時代を経るごとに親族内承継は減少し、「親族以外の役員・従業員」、「社外の第三者」への承継が増加してきています。
帝国データバンクの調査によると、同族承継者が減少の傾向にある一方、従業員からの内部昇格が増加の傾向にあることがわかります。この割合は、いずれ逆転すると思われます。
後継者を確保する上で重要なことは、親族にこだわることなく、後継者候補を早期に決めて、時間をかけて育成を図っていくことです。
また、「その他」にあるのは、いわゆるM&Aに代表される、事業と財産を共に第三者に売却し、継承していく方法です。多くの場合、従業員の雇用も維持されることが期待できます。
M&Aはこれまで、中小企業には馴染みのない物でしたが、事業承継の有力な手段として注目されています。証券会社等による大企業中心だったM&Aですが、最近では、㈱日本M&Aセンターのように中小企業のM&A専門とする仲介会社も増えてきています。2020年版中小企業白書によれば、中小企業のM&A成約件数は、過去5年間で約6倍となっています。
早めの、事業承継のすすめ
後継者不在の企業は年々増加しており、60歳時点で約半数の企業では、後継者不在となっています。特に、建設業では70.5%、サービス業69.7%、小売業66.4%の企業が後継者不在で深刻な問題となっています。
加えて、事業承継には、長い時間が必要です。
後継者に事業承継の意思を伝えてから、事業承継が完了するまでの期間も相当年数必要で、特に親族内承継では、5年超の割合が最も高く、43.9%に達しています。
また、別の調査では、後継者を決めている企業とそうでない企業では、売上の伸びや収益性に差が現れています。後継者を決め、現経営者が足らざるところを補完するなど後継者を育成し、また、後継者の若く新しい発想で、事業承継を機に、両者が事業の進展にチャレンジする好循環が生まれて来るのではないでしょうか。
確実な事業の承継には、後継者を経営者として育成することが必要であり、それには、長い時間が必要です。いずれにしても(親族内・従業員・第三者)、企業が事業承継を確実に行うためには、まず、後継者確保が絶対条件であり、「何とかなる」と言う考えではなく、早期に「決める」「着手する」ことをお勧めします。
今回は、事業承継の現状について考えてきました。次回は、中小企業の事業承継の取り組み方の全体像についてまとめていきたいと思います。