事業承継のすすめ(その2) まず、事業承継に着手してみる
(2022年 3月24日)
こんにちは。中小企業診断士の武田です。
三浦湘南共創ネットワークのブログを訪問いただき、ありがとうございます。
事業承継に悩んでいる農家や経営者の方が、葉山町でも少なくありません。私のブログでは、シリーズ物で事業承継について解説をしていきます。前号では、事業承継の現状についてご紹介をしました。事業承継は、まず、経営者ご本人が、その気になって、行動に移すことが、始まりです。今回は、事業承継を進めるにあたって、その全体像をご説明します。
1.事業承継の全体像
「事業承継=相続税対策」、とか、後継者がいない場合、「事業承継=M&A対策」と思っている方も多いのではないでしょうか?しかし、これらは、事業承継の取り組みの一部にすぎません。事業承継では、現経営者が築いてきた「目に見えない財産の承継」こそが大切なのです。
2.事業承継の着手
(1)事業承継の全体像
まず、事業承継の全体像を見てみることにしましょう。一口に事業承継と言っても、後継者候補のいる場合、いない場合でその取り組みは異なります。後継候補者がいる場合でも、その方が、ご子息なのか、親族なのか、従業員なのかで留意すべきポイントは変わってきます。ここでは、後継候補者がいても、このように、多岐にわたった取り組みがあることをご理解ください。
(2)まず、現状の把握を
具体的に事業承継を始める前に、まず、会社と経営者ご本人の現状把握が重要です。
経営者の頭の中にある情報や分散している資料を集め、その概要を見える化する作業から始めます。その中から、会社、経営者が抱える課題を抽出していくことができます。
《会社概要の把握》
①株主の状況 :・一族のシェア、 ・名義株の有無
②役員の状況 :・一族、外部役員の状況、 ・名ばかり役員の有無
③事業の内容 :・業種、 ・ビジネスモデル
④業績推移 :・売上高、利益、 ・純資産、 ・借入残高
⑤主な取引先 :・大口販売先、 ・大口仕入先
⑥組織・体制 :・組織、規定類の整備状況、 ・役員退職金積立
⑦後継者の存在 :・(有)~ 親族or従業員or外部、 ・(なし)~これから探すorM&A
《経営者の概要》
①経営者の状況 :・健康、 ・公的な役職、 ・その他の問題
②家族の状況 :・相続関係者(年齢、仕事、婚姻)、 ・健康
③自社株式 :・経営者の保有割合、 ・相続税評価額
④事業用資産 :・物件の特定、 ・相続税評価額
⑤その他の財産 :・不動産、上場有価証券など、 ・相続税評価額
⑥負債・債務保証:・経営者個人の負債額、 ・債務保証額
(3)長期経営計画書をつくる
現状の把握を終えたら、長期経営計画書の作成に取りかかります。事業承継は手段であり、目的は、会社の継続的発展と考えてください。また、経営者の想いのこもった経営理念やビジョンを次代に継承するための長期経営計画書の作成は、「経営の承継」そのものです。経営者だけでなく、後継者や幹部社員と一緒になって作り上げてください。また、策定のプロセスを通じ、後継者のリーダーシップ発揮の場となるような運営を心掛けてください。
長期経営計画策定の流れと抑えるべきポイントは、以下の通りです。
(4)事業承継計画書の作成 ~事業承継の見える化
次は、事業承継計画の作成です。
事業承継計画書は、長期経営計画に、①事業承継の時期、②後継者の選定、③後継者の育成、④社内体制の整備、⑤自社株式の移転 等の対策を具体的に記述していくものです。こちらは、経営者と後継者、そして専門家(中小企業診断士、税理士、弁護士)によるクローズなメンバーで作成をしていくべきでしょう。
親族内承継の場合、後継候補者が決まってから事業承継までに5年以上かかった会社が12.8%あります。(2019年 中小企業白書)後継候補者選定がこれからの会社や事業承継後の現経営者の位置づけフォローなども考慮すると、10年間くらいをスコープとするべきです。
その中で、会社の経営計画、会社経営のイベント、経営者と後継者の位置づけ、後継者の育成、自社株の移動、事業承継のイベントなどが俯瞰できるようにまとめていきます。
将来の会社経営の安定のためには、自社株式や事業用資産を後継者に集中させることが必要です。しかし、その際に、他の相続人との関係や税金の問題が発生します。このため、計画策定の時期から、税理士や弁護士、診断士などの専門家も加え協議してください。
事業承継計画書のサンプルを以下に掲載します。詳しくは、中小企業基盤整備機構の『中小経営者のための事業承継』(令和3年第2版)26ページを参照してください。
https://www.smrj.go.jp/ebook/2021_zigyosyokei/book.pdf
(5)定例会議を開催しフォローを
事業承継は、長い時間をかけて行って行くため、事業環境のみならず、経営者や後継者の身の上にも思わぬ変化が発生するかもしれません。また、計画をつくって終わり、ということにならないよう、年次、月次等で定例会議を開催し、長期経営計画、事業承継計画のチェック&フォローをしていきます。変化に対しては、計画の修正も必要です。常に関係者が計画を共有し、PDCAサイクルを回してください。
今回は、事業承継の着手にあたり、その全体像と計画策定について見てきました。次回は、作った事業承継計画の進め方、順次、ご紹介いたします。